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2010年2月20日 (土)

挑戦の先に掴んだもの -フィギュアスケート男子シングル 高橋大輔銅メダル-

日本人男子初のオリンピックフィギュアメダリストが誕生して一夜が過ぎた。
おめでとうの一言しかない。

高橋選手おめでとう。

私も不覚にも涙ぐんでしまった。
前回のトリノでの荒川選手の時よりも感情は高ぶってしまったかもしれない。
先日のSPを見て、19日の有給休暇を決定した。仕事をしている場合ではない、と判断した。やはり素晴らしい戦いだった。LIVEで観戦できたことに喜びを感じている。

そして、織田、小塚両選手も7、8位と入賞した。本人たちには悔しさもあろうが、チーム日本としては、十分に結果を残したといえるだろう。
団体戦なら日本が金メダルだ。(意味ないけど^^)

上位の選手を中心に書いてみたいと思っている。

①金メダル イヴァン・ライザチェック(アメリカ)

素晴らしいフリースケーティングだった。彼に出来うる最高の演技だったと思う。彼はSP、FSともに殆どパーフェクトな演技を成し遂げたことになる。今回も焦点になった4回転は入れずに完成度を高めるという選択をした。
実際、彼の演技は素晴らしく、各エレメンツで、GOEが殆どプラス評価。「Triple Axel + Double Toeloop」「Triple Flip + Double Toeloop + Double Loop」の二つが微減という感じ。しかもジャンプだけでなく、スピンやステップにおいて、軒並みレベル4を獲得している(ストレートラインステップのみレベル3)ことも彼の演技の密度の濃さを物語っている。SPでも高く評価されていたプログラムコンポーネンツも、当然のように高評価。4回転を入れない演技において望みうる究極のレベルといって良いものだった。

彼にしてみれば、ここまでやって後は、プルシェンコを筆頭とする4回転を入れる選手たちの演技待ちという気持ちだったのだろう。
勿論、SPでのプルシェンコの状況、或いは直前にアメリカの審判が投げかけたという「プルシェンコの演技につなぎがない」といった状況をどうするかという問題で、結果SPでのプルシェンコのつなぎの点数が、他のトップ選手達からはかなり低い評価をされたという部分で、これでも勝負できるという計算もあったのかもしれない。

これらの事を持って、彼や彼の陣営を「ずるい」とか言う気は毛頭ない。また、これで優勝するのに4回転は必要ない、というような極端な、ある意味ヒステリックな論にも賛成しない。その選択が今回は功を奏したが、常に成功するということはないし、現に今回でも、十分とは言えない内容のプルシェンコと際どい点差になっている。それこそプルシェンコがジャンプの一つをクリーンに飛んでGOEでプラス評価を貰ったら、金メダルはプルシェンコのものとなってる。
これはあくまでもどういう選択をするか、ということでしかなく、その選択が上手くいくかどうかは、その時の状況によって決まるのであって、どちらが正しいとか、間違っているとか言う性格のものではないと思っている。
(これを言うと、キム・ヨナの問題も出てきてしまうのだが、あれは彼女の演技自体の評価に対する疑義であって、そのプログラムの戦略に対しては、どうとも思っていない)

いずれにしろ、今回のオリンピックにおいて、金メダルに値する演技は、やはりライザチェックのものだったと私は思っている。少なくとも、現在のモダンなフィギュアスケートにおけるベストな演技であったということに間違いはないと思っている。
個人的には、ライザチェックも好きな選手なので、彼の金メダルは嬉しい。おめでとう。

②銀メダル エフゲニー・プルシェンコ(ロシア)

やはりプルシェンコといえど、この時間で、全てを完璧に仕上げてくるのは無理だったと言うことか、とも思うし、もしくは、もう身体的にギリギリという状況なのかもしれない。それは傍から見ている一素人には計り知れないものだが。
SPでは、プログラムコンポーネンツの「つなぎ:Transitions/Linking Footwork」のみが異様に低く、付け入る隙があるかもしれないと指摘した。
しかし、今日のFSを見ると、それ以上に、状態は悪かったというべきかも知れない。
各エレメンツのGOEが伸びていない。実際に演技を見ていた印象でも、ジャンプの質が良くないように見えた。硬い感じ。大きくミスをすることはなかったが、まとめたという状況で、プラスがもらえるというところまでは達してはいなかったのだろう。

もしかすると、彼の演技は一時代前のものなのかもしれない、という考えも浮かんできてしまう。それが良い悪いということではなく。
会見で「つなぎはない」と言ったとされる話もあるし、今回でも4回転を飛ぶべきだという挑発(まあ、これについては別の側面もあると思うので、一概には言えないけど)なんかを見ても、彼には現在の採点システムというか、点数の出方、選手たちの戦術といった部分に、違和感というか反発したい思いがあるのだろう。
それはこれまで、彼が鎬を削ったフィギュアスケートではないという気概なのだろう。王者としてのプライドもあったのだろうし。そんなものでも私なら勝ち抜ける、という主張だったのかもしれない。

しかし、現在のフィギュアもそれほど甘くはなかったということなのだろう。
やはり、一つ一つの動き、エレメンツを採点システムの中でブラッシュアップさせてきた現在の選手たちとプログラムの完成度といった点で乖離があったのではないか。それでも、自身のポテンシャルでもって、ここまで来たということと、私は捉えている。それだけで十分に賞賛に値すると思う。今回でも後一歩でオリンピック連覇という偉業が達成される所だったのだ。しかも、今シーズン復帰をしたばかりの選手が。惜しむらくは、後一シーズン早く復帰していたら、プログラムの完成度、SP、FSを揃えて演じきる体力、といった面でよりトップフォームに戻り得ていたのかもしれないと思ってしまった。それも含めて、オリンピックということなのだろう。だから難しく、そして、尊い。

③銅メダル 高橋大輔(日本)

おめでとう。遂にオリンピックメダリストの仲間入りだ。
十分にメダルに値する演技だったと思うし、会場だけでなく、TVで視聴していた我々をも感動させる素晴らしい演技だった。
無粋ながら、ポイントという観点から見ると、転倒した4回転だけでなく、「Triple Flip + Triple Toeloop」「Triple Lutz」「Triple Lutz + Double Toeloop + Double Loop」でも、GOEでは減点されてしまっている。彼の真骨頂とも言える「Straight Line Step Sequence」もレベル4が取れず、レベル3。最後のエレメンツとなった「Change Foot Combination Spin」はレベル2に抑えられてしまった。実際に見ていても、硬さは見られた。それでもメダルに対する気迫のようなものや表現力といった部分は、十分に感じ取ることが出来た。だから、プログラムコンポーネンツでも高い評価が出ている。

また、「4回転を回避していたらより上のメダルが取れた」と言った意見も出てきているが、それは言っても詮無いことだろう。
実際にそうしたとすると、銀や金が取れたかもしれないが、それは高橋大輔というスケーターの選び取る生き方ではないのだろう。
誰が言ったか、どこで聞いたか、定かではないのだが、「退屈な(挑戦しない)金メダルと挑戦したメダルなしなら、挑戦したメダルなしを選ぶ」と言ったという彼には、4回転を回避するという選択肢はなかったのだろう。そんな決断をした上で(4回転を飛んだ上で)、メダルを手にした彼は、間違いなく勝者だ。

④ステファン・ランビエール(スイス)

もう一人の復活も100%の復活とはいかなかった。それだけブランクを乗り越えて、復活するということは難しい、ということなのだろう。
それでもランビエールの存在感は全世界に強く印象付けたのではないか。
彼に関しては、ジャンプの精度に尽きると思う。怪我のと言うか、古傷の状態なんかはどうなんだろう。残念ながら彼の華麗なジャンプを完全に見ることは出来なかった。ジャンプは殆どGOEでマイナス評価。これでは、4回転を入れても、彼の素晴らしいスピンを持ってしても高橋選手には届かなかった。とは言え、プログラムコンポーネンツに彼のスケーターとしての矜持を見る思いだった。やはり、華麗な彼の存在は、オリンピックに映える。彼がこの大会に戻ってきてくれたことを、私は感謝したいと思う。

⑤パトリック・チャン(カナダ)

流石に、あの点数は、ホームタウンディシジョンもあるのかな、という感じだった。
チャンの演技が悪かったなどと言うつもりはない。幾つかの失敗はあったが、十分にいい演技だったと思う。やはりあの伸びやかなスケーティングとか素晴らしいなと思う。
しかし、自国開催で一身に期待を背負う選手のプレッシャーたるや、想像することさえも出来ないものなのだろう。SPではその重みに負けてしまったのだろうか、出遅れてしまった。今日は転倒はあってもカナダ代表として胸を晴れる演技を見せ付けられたと思う。今日のこの点数の出方を見るとSPで彼が無難にまとめてきていたら、普通にメダル圏内に入っていたと思う。色々な意味で複雑な思いに駆られてしまった。
次回、ソチオリンピックでは、彼にホームタウンディシジョンはない。でもプレッシャーも軽減されている。彼は、どう戦うのだろう。

⑥ジョニー・ウィアー(アメリカ)

彼にとって、この評価はあまりにも厳しいものだったと思う。プログラムコンポーネンツで上位選手に圧倒的に差をつけられてしまった。プロではない私には、その点数ほどの違いを感じられなかった。というより、素晴らしい演技に見えた。正直、高橋選手の上にいくことを覚悟もした。
しかし、結果は6位。驚くほどに低かった。ウィアーはこの結果を受け止められるのだろうか。そして、その先に進むことが出来るのだろうか。

⑦織田信成(日本)

この試練は、彼に何を齎すために訪れたのだろう。靴紐が切れるという、ありえないアクシデントの中、滑りきった彼には、ご苦労様としか言いようがない。この中断までは何とか踏みとどまっていただけに、やり切れない思いは有り余る。この中断による2点マイナスは大きかった。とは言え、これらがなかったとしても、今日の状態で、メダルまで到達するのは至難の業だったろう。ベストでチャンの上、5位といった辺りか。ある意味、演技後のインタビューで自ら語っていたように、メダルを争うには、まだ、足りないものがあったのは間違いないだろう。オリンピックの最終グループの重圧を身をもって経験したことで、他の大会では手に入れられない確かなものが手に入ったのではないか。それを活かすも殺すも彼次第だ。

⑧小塚崇彦(日本)

彼にとって、このバンクーバーは真に彼が世界と戦うための、決意表明のようなものと、私は受け取った。
結果は、満足のいくものではなかったかもしれない。それでも世界に小塚崇彦の名を十分に示し得た演技を二本見せることが出来たことだろう。
彼の各エレメンツやプログラムコンポーネンツの点数は、徐々に伸びていくのではないか。彼の綺麗なスケーティングは絶対に将来評価される。
そして、入賞、ひいてはメダルをも狙う中で、4回転に挑戦し、両足着氷ながらも認定されたことは、彼にとって今後の大きな武器足りえると思う。
彼の将来には明るい未来しか見えない。

この結果を受けて、日本の国際大会出場枠は、3のまま。これも大きい。(あでも今回はそういう査定ってしてないのかな)
GJ。日本代表トリオ。

前半のSPで出遅れた選手たちの中で、ファイトバック出来たのは、9位、ジェレミー・アボットのみか。メダルなど望み薄な状況で、集中を切らさず、戦い続けることはかなり難しいのだろうが、彼はやり遂げた。佐藤由香コーチと共に次のステップに進んで欲しい。
ジュベールやベルネルといったここ数年トップクラスで滑り続けていた選手たちは、この結果をどう受け止めるのだろう。この結果に絶望して競技から身を引くような決断をしてしまったとしたら寂しい限りだ。といって、何をモチベーションに今後続けていくのかというものも提示しがたいのだが。

今回もオリンピックは厳しく、残酷で、そしてこの上もなく感動的だった。
この大会のために復帰してきた選手たちも素晴らしいカムバックだったと思うが、彼らの本来の輝きをこの場で見ることは出来なかった。それでも現時点での精一杯の演技だったとは思う。出てきてくれただけでも感謝すべきなのかもしれない。
とすれば、大怪我から復帰し、4回転に挑戦しながらメダルを手にした高橋選手の凄まじさを思わずにはいられない。そして、フィギュアの本丸である男子シングル(花は女子シングルだが、やはり男子シングルこそ最高峰だろう)において、日本代表が3人出場し、一人はメダルを手にし、3人共に入賞するというような状況を、数年前まで誰が予想しただろう。
解説をしていた本田武史にとっても、非常に感慨深い結果だったと思う。メダル決定後の彼の声は涙で震えていた。ただ一人で世界に挑み続けた彼がついに届かなかった頂に、彼を追って登場してきた選手が辿り着いたのだ。様々な感情が去来しただろう。そんな彼の孤独な戦いを見ていた私にしても、そのことでも感情が大きく揺さぶられてしまった。
日本フィギュアは、ここまで辿り着いたのだ。
ひとまずここは、しばらくこの結果に酔いしれたい。

次の戦いは24日。

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